基礎知識

酵母で日本酒の香りは決まる|協会酵母と花酵母の話

公開:2026/08/30

大吟醸を飲んで「リンゴみたいな香りがする」と感じたことがあると思います。 あの香りは、米にも水にも由来しません。酵母が作っています。

酒米や精米歩合の話に比べると、酵母は表に出にくい存在です。 ですが、飲んだ瞬間の第一印象を決めているのは、多くの場合こちらのほうです。

吟醸香の正体は2つの成分

日本酒の華やかな香りは、主に次の2つの成分によるものです。

カプロン酸エチルは、リンゴや洋ナシに例えられる香りです。 近年の華やかな大吟醸で前面に出てくるのは、たいていこちらです。

酢酸イソアミルは、バナナやメロンに例えられる香りです。 カプロン酸エチルより穏やかで、丸みのある印象になります。

どちらがどれだけ出るかは、使う酵母の性質と、発酵させる温度で決まります。 低温でゆっくり発酵させる吟醸造りが香りを引き出すと言われるのは、 低温のほうがこれらの成分が揮発せずに酒の中に残るためです。

協会酵母という共通基盤

日本醸造協会が優良な酵母を選抜して、全国の蔵に頒布しています。これが「きょうかい酵母」です。 番号で呼ばれ、それぞれ性格が違います。

協会7号は、長野県の宮坂醸造(真澄)のもろみから分離された酵母です。 発酵力が強く、香りは穏やかで扱いやすいため、現在も広く使われています。 いわば標準的な選択肢です。

協会9号は、熊本県酒造研究所(香露)由来の酵母で、 「熊本酵母」とも呼ばれます。吟醸香が高く、鑑評会の出品酒を大きく変えました。 今の吟醸酒のイメージは、この酵母が作ったと言っても言い過ぎではありません。

協会1801号は、カプロン酸エチルを非常に多く生成する酵母です。 セルレニンという物質への耐性を持つ株を選ぶ手法で育成されました。 全国新酒鑑評会の出品酒で長く主流になっており、 「最近の大吟醸はどれも似た香りがする」と言われる背景にはこの酵母の普及があります。

県独自の酵母と花酵母

協会酵母のほかに、各県の工業技術センターが独自に開発した酵母もあります。 静岡酵母(NEW-5など)、山形酵母、秋田酵母といったもので、 その県の酒に共通する性格を作る要因になっています。

東日本の日本酒の傾向で触れた静岡の吟醸が 「香りは高いが穏やかで、後味が軽い」と評されるのは、静岡酵母の性質によるところが大きいとされます。

花酵母は、東京農業大学の研究で確立された手法によるもので、 ナデシコ、ツルバラ、アベリアといった花から分離した酵母を清酒造りに使うものです。

誤解されやすいのですが、花の香りが酒に移るわけではありません。花に付着していた野生酵母のなかから、清酒造りに適した性質を持つものを選び出して育てたもので、 「花から採れた酵母」であって「花の香りを付ける酵母」ではありません。 結果として独特の香味を生むものが多く、それが特徴として扱われています。

ラベルで酵母を確認する

酵母は表示義務がないため、書かれていないことのほうが多いです。 ただ、こだわりのある蔵は裏ラベルに「使用酵母:協会1801号」のように記載していることがあります。

香りの強い酒が好きなら1801号やカプロン酸エチル高生産の酵母を、 料理に合わせたいなら7号系の穏やかなものを、という選び方ができます。 銘柄名に酵母の名前が入っているものもあり、そうした酒は蔵が香りを前面に出す意図で造っています。

造りの工程全体は日本酒はどう造られるのか、 酒母のつくり方による違いは生酛・山廃・速醸の違いにまとめています。

味わいから銘柄を探すなら、トップページの検索が便利です。香りの強さや甘辛をレーダーチャートで比べられます。

この記事を書いた人

メカとら人事 × DX / 日本酒好き

人事の仕事のかたわらデータ分析とDXに取り組んでいます。日本酒好きが高じて、 7,900件を超える銘柄データベースを個人で作りました。旅先の酒屋や市場で地酒を買うのが趣味です。

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